変身する僕
僕は1級印章彫刻師(ゴム印彫刻作業)に変身した。
8月5日に社団法人 全日本印章業協会による
第1回 技術検定 彫刻ゴム印 1級の試験があった訳でして・・・。
4時間半の試験時間内に 判下課題が一つと彫刻ゴム印課題一つを提出する。
(試験内容)
雁皮紙(がんぴし)という和紙に指定の文字を筆で書いて 転写、彫刻(切り回し・浚い)するのだが
どの工程も気が緩めない。 試験が終わると どっと疲れが押し寄せてくるといった試験である。
この試験、数年前は国家資格(厚生労働省)だったとか。
受験者が少ないためか、長らく試験そのものが休止状態とかで・・
なんとも悲しい話である。
その訳は 手彫りゴム印の抱える問題点にあるのだろう。
価格が機械作成よりも 3~5倍する。
機械で作るより 断然手間がかかる、神経もつかう。
道具においても鋼を研いで専用のゴム刀を作れなければできない。
まさに手仕事の抱える問題点そのものである。
ただ 線のシャープさ、耐久性、独特な味わいは
機械には出せない良さを持っているのが手彫りゴム印である。
途絶えてはいけない印章業伝統の技術の一つだと僕は確信している。
そもそも、僕が手彫りゴム印を意識し始めたのは中学生の頃の父との会話だったかもしれない。
当時、父の仕事場近くで勉強していた僕が 試験勉強をしていた頃、
突然父が、手のひらサイズの彫刻台についたゴム印を自慢げに見せながら
「よし、できたー これ見てみろ。どうだ、いいだろう」
確か、住所、会社名、代表取締役名の3行ゴム印だったような・・・。
そのときの僕は、「ふ~ん」と言ったような・・・雰囲気だった。
ただのゴム印に なぜそんなに情熱をかけるのか 疑問を抱いていたことを覚えているなぁ。
あの時の自分には到底理解できなかった。
僕があの頃抱いた疑問を理解したのは 今からおよそ8年程前。
自らゴム刀を作り、いざゴム印を作った瞬間であろう。
5センチ程度の1文字を彫り上げるのに3~4時間かかったような・・
自分の技術と一流の技術との差がはるかに大きかった。
その頃から僕は 先人たちの作ってきた作品のすごさに心が引き寄せられたような気がする・・・。
将来、きみ達もきっと同じことを思い、疑問を抱くときがくるだろう。
今度は僕がこの技術の良さやすばらしさを伝える番だ。
だからこそ、生き生きとした手彫りゴム印を作って
ただ、ひたすらに技術向上に努める。先人達が歩んできたように。
その先に 未来のきみ達に伝わる何かがあると 僕は思う。
きみは最近、仮面ライダーウィザードに変身してるね~。
魔法をつかうらしく。なんか「最後の希望」らしい。
僕にはあまりよくわからないけど・・・ とにかく強いらしい・・。
試験の合格通知が届いたときに 僕が お母さんに
「一級印章彫刻師になったよ」
といったとき きみは 目を輝かせて僕に聞いたね。
「それってすごい強いの?」
僕とお母さんは 笑顔で顔を見合わせた。
お母さんが「すごく強いかもね」と教えたから・・・
きみは仮面ライダーウィザードに僕は1級印章彫刻師に変身して
なぞの戦いを繰り広げる訳で・・
そんな戦いを見ていたお母さんは もう一人のきみを抱っこしながら
笑顔で 僕たちを 見ていた。
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